東京高等裁判所 昭和27年(ナ)11号 判決
原告 小田俊与
被告 西村直己・外一名
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告は、昭和二十七年十月一日執行した静岡県第一区衆議院議員選挙における当選人被告西村直己及び同高見三郎の当選を無効とするとの判決を求めると申し立て、被告等代理人は、主文同旨の判決を求めた。
原告は、その請求の原因として次のように述べた。
一、昭和二十七年十月一日に執行された静岡県第一区衆議院議員選挙において、被告両名は、当選人と決定し、同年十月四日その旨の告示がなされた。
二、これより先、静岡県選挙管理委員会が発行した静岡県第一区衆議院議員選挙公報に被告等は、政見として次の事項を掲載、これを選挙人各世帯に配布せしめた。
(一) 西村直己の分
八、静岡県の復興、郷土特産品産業の助長
(1)、県下、道路、河川、堤防等の改修及び災害復旧促進。
(2)、特産品、茶、柑檎、罐詰等の海外販路開拓のための国庫助成。
(3)、下駄、家具等木漆産業の振興助長。
(二) 高見三郎の分
「この意味で中心はあく迄、電源開発にあるから電力公債でも何でも発行して一日も早く産業復興の基礎的条件を整備する事が、先決であり大井川、天竜川の開発は必ず実現するこれは同時に治山、治水及び用水の活用という重大使命にもつながつている。」
三、右政見に記載された問題が、本選挙区の選挙民と密接な利害がつながつているため、右政見による両名の利害誘導による運動は果然絶大な効果を奏し、被告高見三郎は最高点の六万六千二百四十二票、被告西村直己は第四位の五万四千八百四十二票を獲得した。
四、しかしながら右両名の得票が公職選挙法第一条に明示する選挙人の自由に表現した意思によつて公明且つ適正に行われた結果のものでないことは、前述の選挙公報に記載せられた記事内容が、公職選挙法第二百二十一条第一項第二号に抵触する明白な、かつ悪質の違反行為であることに照して明白である。
殊に被告高見三郎が大井川流域たる志太郡、榛原郡の各町村において、また、被告西村直己が静岡市その他阿部川その他河川流域地帯及び特産品茶、柑檎、罐詰、下駄、家具、木漆産業地帯において、それぞれ圧倒的得票を得ている事実を考察すると、本選挙において、該選挙公報における被告両名の利害誘導の記載内容が、不当に選挙人の意思を決定せしめたものであることは、異論の余地がない。
従つて右被告両名の得票は当然無効たるべきものであり、従つて被告両名の当選は無効とせられなければならない。
五、原告は、右選挙において候補者となつたが当選をしなかつたものであるから、ここに右両名の当選の効力に関し、同法第二百八条に基き、本訴を提起する。
被告等訴訟代理人は、右請求原因事実に対して、原告主張一、二及び五の事実並びに三及び四のうち被告等の得票数は認めるが、その余の事実はこれを否認する。
原告は、被告等の選挙公報の記載内容が、公職選挙法第二百二十一条第一項第二号の規定に触れ、被告等が得た投票は当然無効であり、従つて被告等の当選は無効であるから、同法第二百八条の規定により出訴したと主張するが、右第二百八条は、いわゆる当選訴訟の規定で、選挙の結果としての当選の決定に誤りがあるものとして、当選の効力を争う訴訟であるから、選挙すなわち一般の投票自体は有効であるとの前提に至つて、始めて許される訴訟であると解すべきである。原告の主張は、同法第二百二十一条第一項の規定に抵触して得た投票は全部無効であるという独断があるばかりでなく、右の事実を以つて直ちに、同法第二百八条により当選訴訟を提起し得るものと誤解していると述べた。
(各証拠省略)
三、理 由
原告主張の請求原因事実一、二及び五は、いずれも当事者間に争がない。
しかしながら、右原告主張二、三、四の事実が、公職選挙法第二百八条にいう当選の効力に関する訴訟の理由となるかどうかを判断するに、同条にいわゆる当選の効力に関する訴訟とは、有効に行われた選挙において、当選人の決定が違法であること、すなわち、決定をした機関の構成若しくはその手続、各候補者の有効得票数の算定、または、当選人となり得る資格の有無の認定について違法があることを主張して、当選人と決定せられた者の当選の効力を争う訴訟をいい、広く選挙の法規の違反、殊に当選人等の行為が同法中罰則に掲げる行為に該当することを理由として、当選の無効を主張する場合を含まないものと解するを相当とする。けだしひとしく選挙の法規の違反により当選が無効とせられる場合であつても、選挙運動に関する支出金額が制限額を超過した場合は、別に同法第二百十条に、これを理由とする当選無効の訴訟を規定し、更に行為が同法中罰則に掲げる行為に該当する場合、当選人については、有罪判決の確定により、当然にその当選を無効とし、選挙運動総括主宰者及び出納責任者については、有罪判決の確定の上、当選無効の訴訟を提起することができることを規定しているのに徴すれば(同法第二百五十一条、第二百十一条、第二百十二条参照)、当選人等の行為が罰則に掲げる行為に該当する場合には、刑事上の訴追によりその責任を分明ならしめ、その結果により、或は当然に、或はこれを要件として訴を提起することにより、当選を無効ならしめようとするものであつて、これを理由として、直ちに同法第二百八条の訴訟を提起することを許さない趣旨であると解せられるからである。
すなわち、原告が主張する前記二、三、四の事実は、公職選挙法第二百八条にいう当選の効力に関する訴訟の理由とはなし得ないものと解すべきであるから、原告の本訴請求は主張自体理由がないものといわなければならない。
以上の理由により、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。
(裁判官 小堀保 梅原松次郎 原増司)